2016年12月05日

虞美人草(本編動画あり)

過去記事から、パブリックドメインになっていて、本編をYouTubeなどで見ることができる映画をおすすめしていく企画をスタート。
第1回目は溝口健二監督の『虞美人草』

これはかなりの名作なので必見です。




以下、過去記事のレビューです。

■ 今日の映画 - 虞美人草


--cinema1425-----------

 虞美人草

 1935年,日本,75分

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<キャスト&クルー>

監督 溝口健二
原作 夏目漱石
脚色 高柳春雄
潤色 伊藤大輔
撮影 三木稔
音楽 酒井龍峯
   高木孝一

キャスト 夏川大二郎
     月田一郎
     武田一義
     大倉千代子
     二条あや子

<評価>

☆☆☆☆1/2(満点=5)


<プレヴュー>

 井上弧堂は十数年前に行き倒れになりそうなところを助けて教育
を授け、一人娘の小夜子と結婚刺させるつもりでいる小野を頼って
京都から東京に出る。しかし、その小野は家庭教師先のお嬢さんの
藤尾といい仲になり、藤尾の母の後押しもあって結婚も間近となっ
ていた。小野は恩師への思いと藤尾への思いに引き裂かれる…
 夏目漱石の『虞美人草』を伊藤大輔の潤色で溝口健二が映画化し
た名作。斬新な手法と、力強い描写で間違いなく時代を超えた名作
となっている。


<レビュー>

 この作品は溝口健二という巨匠のフィルモグラフィーの中であま
り取り上げられることのない作品である。それはこの作品がまず年
譜的に見て『折鶴お千』『マリアのお雪』『浪花悲歌』『祇園の姉
妹』と続く溝口健二と山田五十鈴の競作による名作の合間に埋もれ
た作品であるからである。溝口健二という映画作家を年譜的に振り
返るとき、昭和10年前後を特徴付けるのは山田五十鈴を主演にしえ
たこれらの作品群であり、そのどれもが粒ぞろいの名作である。そ
の中にあってこの『虞美人草』はキャストもまったく異なり、作品
の持つ雰囲気も異なっているために、溝口のひとつの時代を語る上
ではこぼれてしまいがちな作品であるのだ。そしてまたこの作品が
溝口唯一の夏目漱石作品であるというのもこの作品がフィルモグラ
フィーにおいて重視されない理由になっているように思える。溝口
は情緒的な作風の作家であり、この頃オリジナル以外では盟友川口
松太郎か泉鏡花の原作くらいしか取り上げていなかったし、戦後に
入っても谷崎、西鶴といった情感溢れる作品を多く映画化した。こ
れに対して夏目漱石は主知的な作家の代表であり、溝口の得意とす
るジャンルではなかった。それがゆえにこの作品はどこか溝口らし
い作品から少しはずれたものと捉えられ、“溝口健二”という作家
を語ろうとするときには議論の埒外に置かれがちなのである。しか
し、そのような得意のジャンルとは異なるものだからこそ見えてく
る溝口の演出の見事さというのもあり、それがこの作品には表れて
いると私は思う。そして同時に、押し付けられた溝口らしさという
視点を抜きにして、純粋に一本の映画と診たときにはこの作品の見
事さには舌をまかざるを得ない。

 とはいえ、この映画の最初はどこかぎこちなく、奇妙な印象を観
客に与える。登場人物の話し方も、カット割りも、不自然というか
作り物じみている。回想シーンに重ねられるナレーションの違和感、
小野と藤尾が会話するシーンの正面からの切り返しの違和感、棒読
みのようなセリフの違和感、これらの不自然さが映画全体を覆って
いるような印象だ。それはやはり上層階級という溝口が普段扱うの
とは違う素材を使っているからなのかとも思う。庶民の視線に込め
られた情感による感情の表現、そのような物語の組み立て方がここ
ではできないがために、このような不自然な印象を受けるのかなど
とも思ってしまう。
 そしてその印象はしばらく続く。映画の中盤でも、小野が小夜子
と一緒に居るところで藤尾に出会ってしまうという場面があり、こ
の場面でも異常なほどに細かい切り返しでその不意の出会いが描写
される。それは突飛といったほうがいいほどに異様をもち、不自然
といわざるを得ない表現である。しかしこのシーンは非常に強烈な
印象を観客に与える。そしてこのシーンを見た瞬間、私はこの不自
然さの中に不思議な力を見出した。その描写は斬新で革新的な、そ
れこそヌーヴェル・ヴァーグの若き作家たちが熱狂しそうな独創性、
そのような独創性がこのシーンには備わっており、かつそれは不自
然に見えた映画の最初からずっとあったものだったのだという発見
をした。その発見があった後には、この映画がぐっと心に迫ってく
るようになった作り物じみた映画空間が、リアリティを持って私の
脳髄に襲い掛かり、私はぐんぐんと映画に引き込まれていったのだ。

 その理由は、このシーンのあと、私がぐっと小野の立場に引き込
まれていったからだ。そして、それは溝口がそう仕向けたのだと私
は思う。溝口はこの中盤で観客を映画にグッと引き込み、小野とい
う主人公に没頭させる。観客は、恩師への恩とその娘小夜子への思
い、さらに藤野への恋情、それら思いに引き裂かれた小野の苦悩を
共有するようになるのだ。
 そしてそれを実現するのは、この不意の出会いのシーンに強烈に
示される小野の視線であり、そしてその直後のシーンにある小野の
小夜子を見る視線である。このふたつの視線に刺し貫かれた観客は
小野の立場によりそい、映画の内部へと引き込まれるようになるの
だ。
 しかし、それはあくまでも観客が映画の中へとは言って行く最初
の一歩でしかない。小野の視線に導かれ、小野の立場に寄り添うと
いうのは、観客がその物理的な身体を離れ、スクリーンの向こう側
という映画的身体へと入り込むその導入に過ぎないのだ。観客はス
クリーンの内側で宗近、藤野、欣吾、さらには孤堂、浅井とそれぞ
れの視線に乗っかり、その気持ちを自分の気持ちのように感じるよ
う仕向けられる。それを実感するのは、窓からのぞき見る欣吾と宗
近の視線に出会ったときであり、また、それによってもたらされる
「藤尾は結局誰からも捨てられてしまうのではないか」という予感
によってである。
 それはあまりに映画的な瞬間であり、幸福な映画体験だ。そして、
このあたりからそれに呼応するように物語の展開も一気に加速する。
めまぐるしく変わる視線のコントロールに誘われて、映画的身体は
目くるめく展開のなかで、無数の登場人物を渡り歩き、それぞれの
視線の持ち主の心の中にその座を占めながら、その絡まりあう心理
を夢を観るように体験して行く。
 そしてこのめくりめく体験は、最後の藤尾と宗近の対面シーンで
きわまる。このシーンで展開される藤尾と宗近とそして時計と荒波
のモンタージュ。このモンタージュの見事さは筆舌に尽くしがたい。

 この作品を見ると、ヌーヴェル・ヴァーグの若き作家たちが溝口
に熱狂したというのもわかる。溝口はモンタージュによって観客を
映画の内部に引き込み、その内部には映画的な悦びが満ち溢れてい
るのだ。溝口がモンタージュによって作り出す幸福な映画体験、映
画に没入するということの純粋な体験こそ映画作家が追い求める表
現なのではないか。70年前にすでにそれを完全に実現してしまった
溝口健二が巨匠であることは間違いない。この作品が彼らしくない
作品であるからこそ、逆にそれを強く実感するのだ。





□ DVD今日の買い!

<今日の作品:虞美人草>

 『虞美人草』はDVD化されていません。


<今日のお勧め>

 溝口健二の作品は、昨年没後50年ということで、数多くDVD化
 されました。

 『溝口健二 大映作品集』
  vol.1 http://tinyurl.com/2kz8sw
  vol.2 http://tinyurl.com/2smbb2

 『浪華悲歌』
  http://tinyurl.com/2vz5mu

 『夜の女たち』
  http://tinyurl.com/39jtmq

 『西鶴一代女』
  http://tinyurl.com/379a4b

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2014年01月24日

テイク・ディス・ワルツ ― 夫か新しい恋人か、女の「選択」は。


なんかずっと寒いですね。
寒い時はやはり鍋!ということで鍋を食べることが増えていますが、最近は色々な鍋が登場して、メーカーもトマト鍋だとかカレー鍋だとか、いろいろブームを演出しようとしているわけです。

たしかに、しょっちゅう食べるとバリエーションがね。
という時に私がいつも使っているのがこの本。


残念ながら絶版っぽいですが、中古で買うか、図書館で借りてください。

牛すね肉とトマトの鍋なんてもはや鍋というより煮込み料理ですが、これなんか絶品。他にもいろいろな肉団子の鍋とか美味しい鍋が色々載っているのです。鍋レシピに迷っていたら是非どうぞ。

ただ、自分で作れない鍋もあるんでね。その一つがモツ鍋。もつが手に入りにくいし、スープもなかなか難しいというわけで、モツ鍋が食べたい時は食べに行くか、セットとか素を
買うわけです。
こんなのとか。


さて、今日はサラ・ポーリー監督の『テイク・ディス・ワルツ』です。
鍋は出てきませんが、料理は出てきます。



■ 今日の映画 − テイク・ディス・ワルツ


<1行コメント>
夫か新しい恋人か、女の「選択」は。


--cinema2761------------

 テイク・ディス・ワルツ

 Take This Waltz
 2011年,カナダ,116分

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<キャスト&クルー>

監督 サラ・ポーリー
脚本 サラ・ポーリー
撮影 リュック・モンテペリエ
音楽 ジョナサン・ゴールドスミス

キャスト ミシェル・ウィリアムズ
     セス・ローゲン
     ルーク・カービー
     サラ・シルヴァーマン
     アーロン・エイブラムス
     
<評価>

☆☆☆1/2(満点=5)


<プレビュー>

 フリー・ライターのマーゴは取材先で同じく取材に来ていたダニエルと出会う。帰り道でも一緒になった2人は偶然にも家が斜め向かいであることを知る。マーゴは料理本を執筆する夫のルーと仲睦まじく暮らしていたが、ダニエルに惹かれ、二人の間で揺れ動き始める…
 サラ・ポーリーの監督第2作。ごく普通の女性たちの微妙な心理を丁寧に描く佳作。大きな事件が起きなくても日常の中にドラマはある、そんなことを感じさせられる。
続きを読む
posted by ヒビコレエイガ at 18:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本2000年以降 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月09日

デタッチメント 優しい無関心 ― 大人も若者も抱える「孤独」は何を求めるのか。


2014年ですねぇ。
新年というと「今年は…」なんて目標を掲げたりしますが、
皆さんはいかがでしょうか?

わたしは特に目標とかは掲げませんが、もう少し「言葉」に
こだわって行きたいかなと思います。

兎にも角にも、新年です。

と書いて「兎にも角にも」ってなんだって思ったんですが、語源を
調べてみると、「と」がそれ「かく」がこれという意味で、
「あれこれ」とか「何やかや」という意味だそうです。
漢字は当て字で、漢字の方の本来の意味は「亀毛兎角」という語で、
これは「ありえないもの」のたとえということですね。

この当て字を広めたのは夏目漱石だそうで、「草枕」の冒頭にも
「兎角に人の世は住みにくい」と登場します。

他に、江戸時代に「兎角亭亀毛」という浮世絵師がいて、これは
山東京伝の別名ではないかなどという話も見つけました。
なかなか面白い言葉でしたね。
「とにかく」という言葉はよく使う言葉なだけに、いろいろな
エピソードが生まれるのかもしれません。

さて、映画です。

今日は『デタッチメント 優しい無関心』です。
いい映画でしたが、未公開ですか。



ところで、「草枕」も電子書籍なら無料で読める時代ですね。
http://amzn.to/1ijieVe





■ 今日の映画 − デタッチメント 優しい無関心


<1行コメント>
大人も若者も抱える「孤独」は何を求めるのか。


--cinema2760------------

 デタッチメント 優しい無関心

 Detachment
 2011年,アメリカ,97分

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<キャスト&クルー>

監督 トニー・ケイ
脚本 カール・ランド
撮影 トニー・ケイ
音楽 ザ・ニュートン・ブラザーズ

キャスト エイドリアン・ブロディ,クリスティナ・ヘンドリックス,ルーシー・リュー,マーシャ・ゲイ・ハーデン,ジェームズ・カーン,ブライス・ダナー
     
<評価>

☆☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 「荒れた」高校に臨時教師として赴任したヘンリー、太り気味の少女メレディスを始め、生徒の心を徐々に捉えていくが、ボケて入院する祖父を抱える彼の生活は孤独だった。そんなヘンリーはある夜、車内で売春婦らしい少女エリカを助け、自分の部屋で休ませるが…
 様々な孤独を心に抱えた人々を描いたドラマ。言葉少なに人々を描く人間描写が素晴らしい。監督は『アメリカン・ヒストリーX』のトニー・ケイ。続きを読む
posted by ヒビコレエイガ at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ2000年以降 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年08月15日

探偵はBARにいる ― 「映画は細部に宿る」が、細部しか面白くないと…


お盆です。みなさま帰省なり旅行なりしてらっしゃるでしょうか。
私は普通に仕事しています。
が、9月には北海道に行きますよ。どうでしょう祭に。
だからというわけではないですが『探偵はBARにいる』を見ました。

北海道といえば美味しいものがたくさんあるわけですが、お土産もので最近のヒットは「十勝で候」という六花亭のキャラメルです。

六花亭といえば「バター」ですが、それを使ったキャラメル。
そして、ちょっと変わっているのが煎り大豆が入っているところ。
これが美味しい。

というわけなので、北海道旅行に行っている知人がいたらおみやげに頼んでみてください。

というわけで、北海道に思いを馳せつつ『探偵はBARにいる』です。




■ 今日の映画 − 探偵はBARにいる


<1行コメント>
「映画は細部に宿る」が、細部しか面白くないと…

--cinema2758------------

 探偵はBARにいる

 2011年,日本,125分

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<キャスト&クルー>

監督 橋本一
原作 東直己
脚本 古沢良太
   須藤泰司
撮影 田中一成
音楽 津島玄一

キャスト 大泉洋
     松田龍平
     小雪
     西田敏行
     田口トモロヲ
     波岡一喜
     竹下景子
     松重豊
     高嶋政伸
     
<評価>

☆☆☆(満点=5)


<プレビュー>

 札幌ススキノのバーに入り浸る「探偵」にコンドウキョウコと名乗る女から依頼が舞い込む。その依頼は弁護士にメッセージを届けるというもの。怪しみながらもその依頼を実行すると、探偵は何者かに拉致されてしまう。何とか逃げ出した探偵は相棒の高田に助けられるが…

 北海道を舞台にした東直己の小説「ススキノ探偵」シリーズを映画化。主演は札幌出身の大泉洋、前編北海道ロケの地域映画。第3作まで制作が決定。
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posted by ヒビコレエイガ at 14:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本2000年以降 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年08月02日

ファミリー・ツリー ― 楽園ではないハワイで家族に楽園を見いだせるか?


ハワイなぁいいなぁ
多少話題になったような気がする『ファミリー・ツリー』の舞台はハワイ。映画そのものより、ハワイが舞台のこういうヒューマンドラマって珍しいなぁっていうことのほうが気になったりしました。

ハワイと言えば、今年の2月頃、初めて行って来ました。
まぁいいところでしたよ。
ただ、どこでも日本語が通じるし、日本人もいっぱいいるし、全くといっていいほど外国な感じがしませんでした。それなら沖縄でもいいんじゃないかと思ったり。食べ物もまあ美味しいんですが、そのために行くほどではないかなと。ただ、コーヒーは抜群に美味しかったですね。あんなに暑いのにホットコーヒーを飲みたくなるあの美味しさ。
ファーマーズマーケットで農園の人が売ってるものなんかも飲んだんですが、ほんとうに美味しかったです。

日本で買うと高いんですよねコナ・コーヒー。
一般的な値段だと100gで700〜1000円くらいでしょうか。
【焙煎珈琲】ハワイコ...

【焙煎珈琲】ハワイコ...
価格:1,764円(税込、送料別)


まあ100%じゃなくてもいいわけですよ。有名なライオンコヒーには
コナ10%のコナゴールドというのがあって、これでも十分美味しいわけです。

これだと100gで400円くらいですかね。
ハワイだと、さらにその半額くらいでした。

そんなコーヒーに思いを馳せつつ、『ファミリー・ツリー』です。
今週は密かに立てている週2回の目標を達成、来週もそれなりにがんばります。


■ 今日の映画 − ファミリー・ツリー


<1行コメント>
楽園ではないハワイで家族に楽園を見いだせるか?


--cinema2757------------

 ファミリー・ツリー

 The Descendants
 2011年,アメリカ,115分

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<キャスト&クルー>

監督 アレクサンダー・ペイン
原作 カウイ・ハート・ヘミングス
脚本 アレクサンダー・ペイン
   ナット・ファクソン
   ジム・ラッシュ
撮影 フェドン・パパマイケル
音楽 ドンディ・バストーン

キャスト ジョージ・クルーニー
     シェイリーン・ウッドリー
     アマラ・ミラー
     ニック・クラウス
     ボー・ブリッジス
     ロバート・フォスター
     
<評価>

☆☆☆1/2(満点=5)


<プレビュー>

 オアフ島の弁護士マット・キングは妻がボートの事故で意識不明の重体に陥り、10歳の次女スコッティの世話を久しぶりにしながら妻の病院へと通う日々。一方でカウアイ島にある先祖から受け継いだ兄弟な原野を売却しなければいけない事になり、親族との話し合いの必要に迫られていた。さらに、全寮制の学校から呼び戻した長女のアレックスから思いもしない事実を告げられる…

 ハワイを舞台に「家族」について考えなければいけない事態に直面した中年男性の心を描くドラマ。監督は『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペイン。微細な心の動きを描くのがうまい。
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posted by ヒビコレエイガ at 18:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本2000年以降 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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